2011年6月29日水曜日

日本にクリーンエネルギー・イノベーションを起こすために


本日、グーグル社がクリーンエネルギー分野におけるイノベーションが経済に与えるインパクトを検証した、と発表しました。それによると、2030年まで米国社会でクリーンエネルギー関連のイノベーションが進む場合、従来のままの経済活動が行われる場合と比較して、GDPが年間1550億ドル増加し、110万人分の新規雇用創出が行われるとのことです。

現在私は、クリーンエネルギー分野のスタートアップ企業が多く集まるシリコンバレーに滞在し、革新的なスタートアップ企業の事業開発支援を行っています。こちらでは多くのクリーンエネルギー・クリーンテック関連セミナーが催されていますが、低炭素社会へ向けたクリーンエネルギー技術の促進が語られる時には、それが与える経済効果や雇用への影響についても、話が及ぶことが多いです。
翻って日本では、再生可能エネルギーの導入、といったエネルギー政策が議論されるときに、それに伴う経済効果や、雇用がどうなるのか、といった本質的なことに対する議論がオープンに行われていないような気がします。

私は日本でもクリーンエネルギー・イノベーションを促進すべきと考えていますが、同時に、そのための下地が整っていないように感じています。イノベーション創出のための下地を作るため、長期的な視点から必要と思うことについて以下に記します。

1.地方主導のエネルギー・イノベーション創出
 先進的なエネルギー政策を、地方自治体が国に先駆けて取り入れることが重要だと思います。例えば米国では、電力会社の省エネルギーに対するインセンティブを高めるため、電力会社の売上と利益を分離するデカップリング制度を取る州が増えています。デカップリング制度は、初めから米国全体にて導入するのではなく、カリフォルニア州での成功を受けて他州に広がっています。このように、新たなエネルギー政策を実験的に地方自治体にて試み、成功した例を全国に広げるということが、今よりもより頻繁に行われるような仕組みづくりが必要です。
 また、地方主導で、地域に合ったクリーンエネルギー技術を取り入れていくことも重要となります。太陽光、小水力、バイオマス、地熱など、適切な分散型発電や、産業のあり方は地域によって異なるため、地方が主導して地元にあった独自のエネルギー政策づくり及び成長戦略を考えていくことが大切になると思います。地域の強みを活かして、ある技術に関して世界の中でも先進的な場所となることができれば、各国のベンチャー企業や研究開発拠点が、その地域に集中するといったことが起こり得るかもしれません。

2. 低炭素社会実現へ向けた産業構造の変化を支えるサポート体制づくり
 エネルギー政策を考える上で、新産業・雇用創出を見据えた長期プランの策定が重要と考えます。低炭素社会を構築するための産業構造の変化をサポートする予算財源の確保、異なる産業へのキャリア転換に対するサポートが必要となるでしょう。
 例えば、産業構造の変化は、カリフォルニア州でも課題となっています。昨年の選挙の際、アメリカの平均を上回る12%という失業率の中、二酸化炭素排出量取引等について定めた環境エネルギー政策(AB32)を失業率が改善されるまで延長しようという法案(プロポジション23)が提出されましたが、住民投票で否決されました。赤字財政の中で、税収をすぐに上げるには、オフショア油田の開発や原子力発電所の建設など、建設関連の仕事を創出するのが効果が高いとの意見が出ていたのに対し、住民がノーといった形になります。一方で、グリーン・ジョブと呼ばれる環境・エネルギー関連の雇用は増えています。市などの地方公共団体がグリーン・ジョブの案内や関連スキルを磨くためのワークショップの紹介を行っている場合がありますし、また、キャップアンドトレードによって集められる資金の一部もまた、そういったサポートに使われる予定です。
 あらかじめ人材の流動性が高いアメリカにおいてさえも、産業構造の変化をサポートする仕組みづくりのために、予算が使われているのです。日本においては、より一層のこと、そういったサポートが必要であると考えます。

3.オープンに議論が行われる下地作り
 教育機関やメディアが重要な役割を果たす分野です。大学にてオープンな討論会を行ったり、小学生の頃からディベートを行う経験を積ませるなど、議論が出来る下地作りを行うことが肝要だと思います。また、様々な価値観に触れ、年齢、性別、国籍等に関わらず個人を尊重する姿勢の育成が必要となります。正々堂々と自分の意見を多くの人が述べられる環境づくりが、イノベーション創出には不可欠です。
 例えば、前出のプロポジション23の住民投票の際は、テレビでも連日、賛成派と反対派のCMが流れた他、大学でも公開の討論会等が多く行われ、住民が異なる意見に触れる機会が多くありました。他の様々な法案についても同様です。市民による政策に関連する勉強会も開かれており、エネルギー政策に携わる立場にある人の話を直接聞き、意見交換をする機会があります。

以上、カリフォルニアでの事例をもとに、日本でのイノベーション創出にとって大切だと思うことについて纏めてみました。


2011年6月22日水曜日

6/10 東京大学での講演サマリー


先日6月10日に、東京大学にて講演を行いました。テーマは「イノベーションを支えるエネルギー政策、その実態と課題」です(詳細はこちら)。お越し頂いた皆様、ありがとうございました。お越しになれなかった方で内容にご興味を持って頂いた方も多かったので、以下に要約を載せます。

講演内容のサマリー:

シリコンバレーを中心とするカリフォルニア州にて、クリーンテック関連のベンチャー投資が進んでいます。2010年の実績では、米国全体のクリーンテック関連ベンチャー投資のうち、70%はカリフォルニア州に集中しており、世界で見ても約50%を占めています。

カリフォルニア州は全米でダントツの太陽光発電の導入量を誇り、また省エネランキングも4年連続で1位を獲得しています。 デマンド・レスポンスも進んでいます。

その理由として、先進的なエネルギー政策の存在が挙げられます。まず、様々な奨励金(リベート)やプログラムの存在があります。セミナーでは、直接的に影響している施策として、太陽光発電関連、分散型発電、省エネプログラムへの各種リベート/プログラムについて紹介しました。

さらに、それらのプログラムを支える政策について話しました。まずは、電力会社の売上と利益を分離するデカップリング制度についてです。1982年に全米で最初に導入されたデカップリング制度の効果として、ここ30年間の米国の1人当たりの電力売上高の平均が右肩上がりなのに対し、カリフォルニア州の1人当たり電力売上高は横ばいとなっていることを紹介しました。

加えて、更なる省エネを推進するためのRisk Reward Incentive Mechanismについて紹介しました 。電力会社は3年を1サイクルとして削減目標量を設定、その達成度合いによって利益を得ます。セミナーでは、RRIMの課題についても取り上げました。更に、省エネやデマンド・レスポンスを発電所の増設より優先して考えることを示したEnergy Action PlanやLong-term Energy Efficiency Strategic Planについてもお話ししました。また、投資家にお墨付きを与える重要な政策として、キャプアンドトレードや2020年までに再生可能エネルギーを33%とすることを定めたAB32があります。

オバマ大統領の政策とも、相互に関連しています。例として交通分野を挙げました。 電気自動車のインフラ整備が全米で最も進んでいるカリフォルニアの取り組みと連邦政府主導のclean city initiativeの関連について取り上げました。

最後に最も大きな課題として、カリフォルニアの財政問題、失業率、産業構造の変化の問題について述べ、それに対する住民の姿勢や州政府のサポートについて話しました。

日本では、カリフォルニアのエネルギー政策と言うと、2000年・2001年の電力危機のことばかりが取り沙汰され、失敗とみなされていることが多いです。しかし、現在はもう2011年であり、この10年の間にカリフォルニアのエネルギー政策は様々な工夫を重ねてきています。各種の政策は、賛否両論がありながらも実行に移され、その結果を基に修正されて進化しており、エネルギー関連のスタートアップ企業を多く生み出す土台として機能しています。カリフォルニアの試みから、学べることは多いと思います。

配布資料:
ディスカッションペーパー


2011年5月2日月曜日

再生可能エネルギーへの投資が進む理由~カリフォルニアのRPS制度とは~

先日、「伊藤忠商事、住友商事及びグーグルが米国で世界最大級の風力発電事業に参画」というニュースがありました。「米国オレゴン州において、世界最大級となる845MWのシェファード・フラット風力発電事業に出資参画」「電力は、カリフォルニアの電力会社であるサザン・カリフォルニア・エディソン社に、20年間の売電契約に基づいて供給される。同社は、この電力供給を、カリフォルニア州が電力事業者に一定割合での再生可能エネルギーの使用を義務付けたRPS法における目標達成に活用する。」とのことです。http://www.kankyo-business.jp/news2011/20110419c.html

オレゴン州での風力事業なのに、カリフォルニア州のRPS法の目標達成に使われるの?と、疑問に思われた方も多いことでしょう。ここでは、カリフォルニアのRPSについて、少しご紹介したいと思います。

カリフォルニア州のRPS (Renewable Standard Portfolio)は、2020年までに電力会社が電力小売売上高の33%を再生可能エネルギーによって賄うことを義務付けるものです。米国の他州のRPSと比べても最も高い目標となっています。ここでいう再生可能エネルギーとは、太陽熱発電、太陽光発電、バイオマス発電、地熱発電、海洋発電、再生可能な燃料を用いる燃料電池などです。

これは、最終的にカリフォルニアにて消費される電力の33%を再生可能エネルギー由来のものにするということであり、割合の制限はあるものの、州外で発電されてカリフォルニア州にて消費される再生可能エネルギーも33%の中に含まれます。

更に、電力会社が再生可能エネルギーを購入する際、「再生可能エネルギークレジット(REC)」を購入することも認められています(2013年までは年25%以内、2016年までは年15%以内、その後は10%以内)。実際の電力を購入せずとも、再生可能エネルギーであるということの 環境価値をクレジットとして購入することが可能なのです。このことは今後、アメリカ西部 (Western Region)にて再生可能エネルギー関連のプロジェクトが増えるインセンティブとして働きます。

以前、こちらのブログ「カリフォルニア州のキャップ&トレード最新動向①」にてご紹介したように、カリフォルニア州はキャップアンドトレード制度導入に向けて法規制づくりを進めています。RPSにて取引される再生可能エネルギークレジットと、キャップアンドトレード制度がどのように相互作用していくことになるのかは、今後の焦点の一つになります。


2011年3月25日金曜日

原子力を巡る各国のアクション、世界の動き

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このたびの東日本大震災により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様、そのご家族の方々に対しまして、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い安全と復旧復興を祈念いたしております。
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日本の原発事故は、海外の原子力発電に対する政策・姿勢にも影響を与えています。

アメリカは、世界の中で最も原子力発電の発電量の多い国です。そのアメリカでは、稼動している104基の原子炉を、90日間で再検討(Review)することにしています。

アメリカにおいては、 特に2つの観点からの懸念が出てきています。1つは、福島第一発電所の第一・第二号機で使われていたものと同じ、沸騰水型の古いデザインの炉についての懸念です。同じ又は類似デザインの原子炉はアメリカ国内に23あり、老朽化等も心配されています。懸念の声が大きいプラントの例として、1972年から運転しているVermont Yankee Plant等があります。2つ目の観点は、地震の起こり得る地方のプラントに対する懸念です。例えば、地震の発生する可能性が大きいカリフォルニアに位置する、Diable Canyon PlantやSan Onothe Plant 、そしてニューヨーク市から40マイル、2つの活断層の近くに位置する Indian Point Plant 等に対して対策強化を求める声が大きくなっています。

ヨーロッパはどうでしょうか。143基の原子炉が稼動しているヨーロッパでは、EUが 緊急会議を行い、域内の原子力発電プラントのセキュリティチェックに関して方針を話し合いました。

原子力を制限する動きは、特にドイツやオーストリアが主導しています。ドイツは未だ電力の4分の1を原子力に頼っているものの、昨年秋に合意された原子力発電所の稼働期間を延長する計画を3ヶ月停止し、7つの古い原子炉のシャットダウンを迅速に行いました。今回、全ヨーロッパにおける原子力発電プラントのセキュリティチェックを求めてきたオーストリアは、1970年後半より原子力発電を禁止しています。

一方で、自国に58の原子炉を持ち、75%の電力を原子力から賄い、原子力発電技術の輸出を主力産業としているフランス、そして新規プラント建設を計画中のイギリスは、温暖化ガス削減と化石燃料からの脱却を唱えて原子力政策を進めてきた背景があり、ドイツやオーストリアとは立場が異なります。ちなみに、外国から使用済み核燃料を受け入れて再処理が可能な施設を持つのはフランスとイギリスのみです。尚、フランスは、今回の事故を受けて逆に、自国の原子力発電技術の安全性を示す良い機会と捉えているようです。

ヨーロッパでは、国同士が隣接しているため、一国での事故が近隣国にも被害を与える可能性があり、一国内の問題では済まないのが課題です。(例えば、フランスで最も古いFressenheim Plantについて、スイスのBasel市(35km離れている)がフランス政府にシャットダウンを求めている事例もあります。)その一方で、国によって原子力発電に対する立場が異なるため、議論の集約は難しく、どのようなセキュリティチェックをどのように行うのか、といったところには踏み込めておらず、EUの指針を基に各国が自主的に行うことになる模様です。

さて、こういった稼働中の原子力発電所の見直しが進む一方で、現在建設中又は計画中の原子力発電所にも影響を与える可能性があります。

図:建設中原子炉の国別内訳


Data Source: World Nuclear Association as of 1/3/11

上図は、現在建設中の原子炉の国別内訳を示しています。現在建設中の62の原子炉の内、3分の2はアジアにおける建設となっています。特に中国は27の原子炉を建設中ですが、新規の原子力発電所の運転開始を一時停止し、再検討(Review)することが決まっています。

10基を建設中のロシアは、今のところ見直しを行っていません。既に32基の原子炉が運転しているロシアは、電力の18%を原子力で賄っており、その分生産する天然ガスを自国ではなく、原子力発電停止により需要増加が推定されるヨーロッパや日本への輸出に回すことができます。

3月18日付けのファイナンシャルタイムズによると、2011年には、天然ガスの供給が十分にあるため、ガス価格に対する日本の原発事故の与える影響は限定的だが、2012−2014年には、受給が逼迫してガス価格の上昇が起こる可能性があるとのことです。また、同紙によれば、原発事故の影に隠れていますが、日本では震災の影響で8.2GW相当の石炭火力が停止しているため、日本の石炭の輸入が減り、石炭価格の下落を招く可能性があります。中国は石炭からの脱却を唱えて原子力を増やしていますが、石炭の価格が安くなれば、石炭の輸入を増やすことも考えられます。また、時を同じくして進んでいる、中東情勢の混迷プラス投機による石油価格の上昇も見過ごせません。

原子力の動きは、化石燃料の需給や、価格の変動にも影響を与え、そしてそのことがまた、世界各国のエネルギー政策に影響を与えます。エネルギー政策においては資源に係る費用のみでなく、エネルギー・セキュリティや、自国の産業育成等の要因も考慮されますので、外交や経済と密接に結びついています。今後とも各国の動き、そして再生可能エネルギーも含めた様々なエネルギーリソースへの波及効果を、追いかけていきたいと考えています。


2011年3月9日水曜日

イノベーションを支えるカリフォルニアのエネルギー政策

東京大学イノベーション政策研究センターに、コラムを寄稿しました。

「シリコンバレーを中心として、カリフォルニア州では近年、クリーンテックと呼ばれる、地球温暖化防止や持続可能な社会に役立つ、エネルギー関連の新しい技術やその関連企業に注目が集まっています。2010年のカリフォルニア州におけるベンチャーキャピタルのクリーンテック関連の投資は約28億ドルであり、アメリカ全体の約40億ドルに対して約70%、そして世界全体と比べても約50%を占めています。2番手であるマサチューセッツ州はアメリカの10%以下しか占めていませんから、カリフォルニア州がまさにアメリカの、そして世界のクリーンテック関係の新産業をリードしていると言えるでしょう。


Source: http://blog.cleantech.com/


何故、カルフォルニアでクリーンテック関連のベンチャー投資が盛り上がっており、多くのスタートアップ企業が生まれているのでしょうか。その大事な要因の一つとして、州政府によるエネルギー政策があると私は考えています。」

続きは、こちらのリンクを御覧ください。
イノベーションを支えるカリフォルニアのエネルギー政策@東京大学イノベーション政策研究センター


2011年2月25日金曜日

太陽光発電のよくある勘違い

「日射量の多いところほど、太陽光発電が導入されている…わけではない」

以下は、州ごとのPV(太陽光発電)システム導入量の試算が示されているマップです。カリフォルニアがダントツの導入量を誇っています。カリフォルニアは日差しが強く日射量が多いからPVの導入が進んでいるのだろう、と考えてしまいがちですが、実際には日射量よりも、もっと重要なファクターがあります。


Source: http://www.solarinstalldata.com/


上のマップと、下記の日射量のマップを比較すると、PV導入量と日射量はそれほど相関していないことが分かります。


Source: http://www.nrel.gov/gis/solar.html

一方で、以下の州ごとの電力料金を示したマップは、より導入量との相関が見られます。電気料金の高い地域ほど、太陽光発電などの代替エネルギーが相対的に安くなるため、導入が進んでいるということです。


Source: http://www.eia.doe.gov/energyexplained/index.cfm?page=electricity_factors_affecting_prices

もう一つの大事な要因が、経済的なインセンティブの多さ(奨励金や税金の控除など)です。


Source: http://www.dsireusa.org/solar/summarymaps/

PVの普及に与える要因については、様々な研究がなされています。例えば カリフォルニア州におけるPV導入について調査したこちらの論文では、電力価格やインセンティブの他、「当該地域で、他の人が多く導入しているほど導入が進む」という、いわゆる経済用語で言うネットワーク外部性の影響も示唆しています。

マーケティング戦略を立てる際には、当然ながらこういったことを考慮に入れる必要があります。

追記)今後、アメリカのPV市場について、こうした各州の電力価格及びインセンティブを詳しく調査し、更に競合分析なども加えた市場分析を行うことを考えています。もし、PV関連製品の米国市場展開や戦略をお考えの方で、ご興味のある方は sayaka [at] eneleap.comまで ご連絡ください。


2011年2月19日土曜日

カルフォルニア州のキャップ&トレード最新動向①

California’s Cap & Trade: latest movement 1
カルフォルニア州のキャップ&トレード最新動向①

「来年からの排出権取引制度導入に伴う法的課題 」

カリフォルニア州では、2012年よりキャップ&トレード型排出権取引制度(排出の規制対象となる企業などに排出量の上限を設定した排出枠が割り当てられ(キャップ)、この排出枠の一部を取引(トレード)することが認められる)の導入が始まる予定です。制度は2020年までにカルフォルニア州の85%の温室効果ガスをカバーし、対象となる施設は約600施設になるとされています。また、初めは排出枠の大部分が無料で与えられますが、段階的にオークション制(オークションによって有償で排出枠を配分する方式)へ移行することが計画されています。

先月行われたスタンフォード大学のEnergy Seminarでは、法学部のMichael Wara准教授がキャップ&トレード導入における現在の法律上の課題を指摘していました。その課題とは、1)Proposition 26に関する問題、2)州外からの電力に対する規制の問題、3)連邦政府管轄の法律との調整、です。

昨年11月の選挙にて可決されたProposition 26では、州政府の収入を増やすような制度上の課金は税金とみなし、導入に際して議会の3分の2以上の賛成を必要とすることが定められています。Proposition 26により、もし排出権の購入が税金と捉えられた場合、その導入には議会の3分の2以上の賛成が必要になるということです。オークション制の導入などは、特に難航する可能性があります。

二つ目の課題は、州外にて発電された電力をどのように扱うか、という点です。カリフォルニア州は、電力の約30%を州外からインポートしています。カリフォルニア州のベースロード電力には、州外からの石炭火力発電が多く使われていることもあり、そういった電力に対してどこまで規制の影響が及ぶのか、については議論があります。

三つ目は、州と連邦政府の狭間の問題です。連邦政府のEPA (Environmental Protection Agency ) はClean Air Actという法律によって温室効果ガスを規制しようとしており、その法律との兼ね合いも考慮に入れる必要があります。また、セメント、重工業などの産業に関する法律は連邦政府が管轄しており、連邦政府の法律が州政府の法律より優先されることになっているため、調整が必要となります。

カリフォルニア州のキャップ&トレード制度は、アメリカ及びカナダにおける幾つかの州と連携し(Western Climate Initiative)、地域における排出権取引市場として発展していく見込みです。

上記の課題は法廷にて議論されることになりますが、どのような判断がくだされるか、は今後他州が同様な制度を導入する際の前例として重要になっていくでしょう。

これからの議論を見守りたいところです。

http://energyseminar.stanford.edu/node/319